公開シンポジウム
「教師像」と「教師アイデンティティ」から教師教育を再考する
趣旨
文部科学省や中央教育審議会があるべきまたは求める教師の姿を「教師像」として示すことで諸政策を展開し,各教育委員会が教員採用選考試験の実施要項やホームページ等で「求める教員像」を公表しているとおり,「教師像」は,国レベルにおいても地方レベルにおいても外在的に規定されるものとなってきた。
本シンポジウムでは,教師が社会や児童・生徒との関わりを通じて形成する「教師アイデンティティ」に光をあてることで,教師自身を専門職の主体として積極的に意識化する視座を示していきたい。「教師アイデンティティ」は,教育実践や社会との関わりのなかで,教師としてどうあるべきか,教師としてどのような行動をとるべきかといった教師自身が自らのあり方や役割を再考し,能動的に構築していくものとして捉えられる。それと同時に,それぞれの教師像を示して教師のあり方や機能に介入するステークホルダーとの関係性のなかで,教師自身が教師像を構築・再構築していく存在として再定義される。とりわけ,特別な支援を要する児童・生徒や外国人児童・生徒の増加,性の多様性の認識と配慮といった社会や教室風景の変化が到来する渦中にあって,教師としてどうあるべきか,どう行動すべきかについて教師自らが語り,より望ましい社会を構築していくための責任をいかに担うかが求められている。
しかし,教師不足の問題がクローズアップされる中,特別免許の積極的活用や臨時免許の増発といった教師の専門性そのものが危ぶまれる事態にも直面している。また,「特定分野に強みや専門性を有する教員」を養成するという方針によって,二種免許状の取得を念頭に置いた教職課程の開設や履修モデルを設定する議論も進みつつある。
本シンポジウムでは,研究者の立場,教員養成を担う立場,現職経験を経た上で独自の歩みを続ける実践者の立場から4名の登壇者をお招きし,「『教師像』と『教師アイデンティティ』から教師教育を再考する」をテーマに掲げて,会員・非会員の参加者と議論を図りたい。
内容
日時 9月21日(土)15:30~18:00
登壇者
・岩田康之(東京学芸大学)
・高谷哲也(鹿児島大学)
・三宅貴久子(瀬戸SOLAN小学校)
・石川晋(NPO授業づくりネットワーク)
コーディネーター
・深見俊崇(島根大学)
課題研究Ⅰ
「実践研究」をめぐる論点は何か ―近接分野の例を参照しながら―
趣旨
今期から新設された、「実践研究」をテーマとする本課題研究は、①教師教育の実践研究の特質およびあり方を検討すること、②教師教育の実践研究の活性化と質の向上を図ることの2点を目的としている。
①に関連して、まず、「実践研究」がさまざまな分野においてどう扱われてきたかを明らかにするために、教師教育学以外の分野も含めた各分野の学会誌を手がかりにして、調査を進めてきた。そのなかで、何を「実践研究」と呼ぶかは、その分野で何を前提としているかによって異なることが見えてきた。また、実践に関わる研究全般を、実践に対する立ち位置やアプローチの違いによって分類する試みも行ってきた。
今回は、そうした調査の途中経過を報告・共有し、ディスカッションを通して、「実践研究」をめぐる論点について、さらに、教師教育学分野の場合の特質について、考えたい。
内容
報告1:全体の趣旨説明と問題設定 渡辺 貴裕(東京学芸大学)
報告2:国語科教育学・社会科教育学分野をもとに 八田 幸恵(大阪教育大学)・大坂 遊(周南公立大学) ※大坂は大会当日は不参加
報告3:日本語教育学分野をもとに 南浦 涼介(広島大学)
報告4:教師教育学分野をもとに 大村 龍太郎(東京学芸大学)・園部 友里恵(三重大学)
指定討論者
大島 崇(大分大学)
コーディネーター
渡辺 貴裕(東京学芸大学)
課題研究II
教師教育学の研究アプローチー「私と教師教育学」
趣旨
教師教育学は研究アプローチの多様性を特徴としている。本課題研究は、この「マルチディシプリン」という本学会の特徴にあらためて焦点を当て、研究アプローチという観点から教師教育学の学術的な基盤を確認することを通して、今後の研究を展望し、さらなる研究の活性化をめざすことを目的として設定された。
当面の研究活動として「私と教師教育学」というテーマを設定し、多様な研究アプローチをしている研究者が相互に話題提供と意見交換をすることを通じて、「マルチディシプリン」という本学会の特徴を明らかにするとともに、教師教育学の学術的な基盤について理解を深めることを目指している。第34回大会ではその活動の一環として、「学校経営学」「教育行政学」のお立場から研究されている勝野正章会員(東京大学)に話題提供者をお願いし、ご自身が執筆された論文を具体的に取り上げてその背景にある執筆意図や問題意識について語っていただくとともに、当該研究に特徴的な研究手法の紹介を通じて、そのアプローチ(学校経営学、教育行政学)の性質や、そのアプローチがもつ教師教育学に対する独自の意義などについてお話していただく。
また、この話題提供を踏まえ、「私と教師教育学」というテーマに関するご自身の経験や考えについて、グループに分かれて参加者相互に情報や意見を交換する場を設ける予定である。対面開催のメリットを活かして積極的な研究交流の機会としたい。
内容
話題提供者
勝野正章(東京大学)
司会進行
鹿毛雅治(慶應義塾大学)
コーディネーター
木原俊行(四天王寺大学)
須田将司(学習院大学)
高谷哲也(鹿児島大学)
長谷川哲也(岐阜大学)
羽野ゆつ子(大阪成蹊大学)
三品陽平(愛知県立芸術大学)
課題研究Ⅲ
各国の教員不足対策を俯瞰する
趣旨
本部会では、教師教育に関する国際比較研究をアプローチとする部会である。昨年までの第11期を引き継ぎ、部会メンバーの大半が継続してこの第3部会に参加している。
前期の研究は教職ルート(教壇に立つためのルート)が各国共通して複数あり、多様であることを明らかにし、その成果を『多様な教職ルートの国際比較 教員不足問題を交えて』にまとめた (日本教師教育学会第11期課題研究Ⅲ部/佐藤仁編,学術研究出版発行,2024年3月)。
この第12期では、教員需給問題、いわゆる“教員不足”問題についてさらに接近していく。前期の検討作業を通して、各国間の教育政策レベルでの教員不足への対応・対策については、①各国を俯瞰しても教員不足問題は広く共通して見られる(ただし、フィンランドや韓国のように現状は収まって見えるところもある)、②教員不足そのものの“問題性”とも呼ぶべきとらえ方や語られ方のちがいがあり、例えば日本では臨時的任用教員の視点が主な特徴の一つとなる、といった状況が掌握できた。同時に、各国内でその状況に地域差があることや、その対応・対策も各国で多様に取り組まれてきている実情が明らかになってきている。
本研究大会では、教員不足問題をその対応・対策の視点から国際的に比較検討し議論する。各国のこれまでを概観しても、長く“慢性的に”教員不足問題を抱え続けてきた国もあれば、近年にわかにその問題が顕著となり対応している国もあり、その歴史性と経験則にもそれぞれの特徴が窺える。前者の事例としてアメリカを、後者の事例にドイツを取り上げ、教員需給の政策についての分類枠を提起しながら、日本が直面している状況を見取っていく。教員不足問題に対するとらえ方・語り方の問題を相対化しつつ、この問題への教師教育論として考えていく。
内容
報告者
アメリカ担当:佐藤 仁(福岡大学)/小野瀬 善行(宇都宮大学)/北田 佳子(埼玉大学)
ドイツ担当: 辻野 けんま(大阪公立大学)
日本担当: 矢野 博之(大妻女子大学)/原北 祥悟(崇城大学)
(※各担当から代表して報告を予定)
司会
矢野 博之(大妻女子大学)
第2回研究倫理学習会
(研究倫理委員会・若手研究者育成支援部 共催)
教師教育研究における研究倫理の「今」を考える
―私たちを取り巻く教育研究の環境―
趣旨
本学会ではこれまで、研究倫理学習会の開催や「研究倫理の広場」での情報提供などを通して、学会員の皆さんの研究倫理に対する認識の深化を継続的に図ってきました。他方で研究倫理の課題は、本学会だけにとどまらず、皆さんが所属するさまざまな組織で顕在化しています。つまり、今日の教師教育研究における研究倫理の課題は、それ単体で存在しているのではなく、所属する組織の教育研究活動と密接な関係をもちながら、複雑に展開しているのです。とくに、研究をはじめて間もない大学院生や学校現場に所属する方々のなかには、研究倫理の規程や審査などを含め、研究を遂行するために必要な環境に難しさを感じることがあるかもしれません。
そこで今回は、皆さんの研究活動や教育活動をめぐって、さまざまな組織での具体的事例をもとに、教師教育研究における研究倫理の「今」について考える学習会を企画しました。次のようなことについて、それぞれの立場で議論してみませんか。
――所属組織での研究活動と研究倫理規程のジレンマ
――学校現場をフィールドとする研究の倫理問題
――研究倫理をめぐる他学会の動向 など
私たち自身を取り巻く教育研究の環境から、研究倫理をめぐる教師教育研究の「立ち位置」を考えていきます。今回の企画は対面開催の良さを生かし、参加者の語りや相互の議論を大切にしたいと思います。
内容
司会進行
村井大介(静岡大学) 小田郁予(早稲田大学)
挨拶・趣旨説明
長谷川哲也(岐阜大学)
話題提供
半澤礼之(北海道教育大学釧路校) 紅林伸幸(常葉大学)
コーディネーター
金馬国晴(横浜国立大学) 瀧本知加(京都府立大学) 菊地原守(名古屋大学大学院)
総括・挨拶
高旗浩志(岡山大学)